大量の陽電子をさばくCOBRA陽電子スペクトロメータ

ミュー粒子崩壊から出てくる大量の陽電子を高い精度で効率よく観測するため、COBRA超伝導電磁石を考案しました。μ→eγ崩壊からの陽電子はCOBRA電磁石の特殊な勾配磁場により曲げられます。そして、その飛跡はドリフトチェンバーによって記録され、その後タイミングカウンターで時間が計測されます。2006年12月に、ドリフトチェンバーとタイミングカウンターをCOBRA超伝導電磁石に挿入し、ミュー粒子の崩壊反応を使って陽電子スペクトロメータ全体の立ち上げ運転を開始しました。

陽電子スペクトロメータ全体の立ち上げ運転前の組み込み作業 ©MEG Collaboration

COBRA超伝導電磁石
MEG実験用に開発されたCOBRA超伝導電磁石は、中心が1.27テスラで両端が0.49テスラという特別に設計された勾配磁場を作っています。この勾配磁場中では、陽電子の軌道半径は放出角によらず運動量によって一定になり、バックグラウンドである大量の低運動量の陽電子はドリフトチェンバーとタイミングカウンターには届きません。COBRA(Constant Bending RAdius)の名前はこれに由来しています。勾配磁場はさらに、陽電子を速やかにドリフトチェンバーから掃き出す働きもして、複数の陽電子の軌跡が重なってしまうのを防ぎます。COBRA電磁石は日本より到着後、2004年1月には動作試験を行なって実験への準備が整いました。

COBRA超伝導磁石。2つの大きなリングは液体キセノン測定器周辺の磁場を抑えるための補償用常伝導コイル ©MEG Collaboration

ドリフトチェンバー
陽電子スペクトロメータの中心から離れたところに設置されており、大きな運動量を持つ陽電子のみがドリフトチェンバーを通ります。セグメント化された16枚の独立したモジュールからなり、ターゲットの周りに放射状に配置されています。物質量を極限まで低減化させるため、個々のモジュールはアルミ蒸着の薄いフィルム(約250nm)によりカソード面が構成されており、ヘリウムを主成分とするガスが使用されています。さらにモジュールの外側もヘリウムガスで充満されています。

設置作業用の架台に載せ、COBRA電磁石に導入直前のドリフトチェンバー ©MEG Collaboration

タイミングカウンター
ドリフトチェンバーの上流側と下流側のそれぞれに厚さ4センチのプラスチックシンチレータを15本円筒状に設置しました。時間分解能はシンチレーション光が多いほど良くなるため、太いシンチレータで光量を稼ぎ、集光効率を最適化して、陽電子のタイミングを100ピコ秒を切る精度で測定できます。強磁場中のため、読み出しにはファインメッシュ型の光電子増倍管が使われています。

タイミングカウンター。トリガーと位置測定のためのシンチレーションファイバー測定器がこの上に設置される。イタリアのジェノバ大学、パビア大学、ローマ大学が製作を担当 ©MEG Collaboration