本センター大谷航助教が平成21年度小柴賞を受賞

 
 

東京大学素粒子物理国際研究センターでは非常に稀なミュー粒子の崩壊現象を探索する実験MEGを推進しており、高エネルギー加速器研究機構(KEK)山本明教授のグループと共同で実験に使用する陽電子スペクトロメータ電磁石COBRAの開発・建設を行いました。

この度、COBRA電磁石の開発・建設を中心となって進めてきた本センター助教の大谷航氏が平成21年度高エネルギー加速器科学研究奨励会小柴賞を受賞しました (平成22年3月)。

受賞課題: 陽電子スペクトロメータ電磁石COBRAの開発・建設

研究内容:

MEG実験はミュー粒子が電子とガンマ線に崩壊するという非常に稀な現象を探索することで超対称大統一理論などの素粒子の標準理論を越える新しい物理に迫ろうという実験です。この崩壊現象は標準理論では禁止されており、超対称大統一理論でも1~100兆回に1回程度しか起こらない非常に稀な現象なので、大量のミュー粒子(実験では反粒子である反ミュー粒子が使われている)を使い、電子とガンマ線を精度良く測定しなければなりません。MEG実験では特殊な勾配磁場を利用した陽電子スペクトロメータ、液体キセノンガンマ線検出器という二つの画期的な測定器を考案・開発して感度の高い探索実験を実現しています。

MEG実験はスイス・ポールシェラー研究所の毎秒一億個という世界最高強度の反ミュー粒子ビームを使用しており、反ミュー粒子の通常の崩壊から発生する大量の陽電子の中から目当ての信号陽電子を効率よく見つけなくてはなりません。大谷航氏が中心となり本センターとKEKが共同で開発した特殊な勾配磁場を発生する陽電子スペクトロメータ電磁石COBRAにより、大量の邪魔な陽電子を効率良く取り除き、信号陽電子を精度よく測定することが可能となりました。

COBRA電磁石の開発にはいくつもの技術的な困難がありました。まずCOBRA電磁石の外側に置かれた液体キセノン検出器によるガンマ線測定を妨げないようCOBRA電磁石を非常に薄く作る必要がありました。そこでKEK山本明教授のグループが中心となって開発した高強度アルミ安定化超伝導線技術を利用することで強度の高い超伝導電磁石コイルを製作、輻射長のおよそ20%という電磁石の薄肉化に成功しました。また強力な磁場を発生するCOBRA電磁石の近くでは、漏れ磁場の影響でそのままでは液体キセノン検出器は正常に動作しません。この問題も補償コイルを用いて勾配磁場にはほとんど影響を与えずに漏れ磁場だけを抑制する画期的な方法を開発することで解決しました。

2008年9月MEG実験は本格的な探索実験を開始しました。COBRA電磁石は探索実験中安定かつ高精度な磁場を供給し続けており、質の高い探索実験データの収集に貢献しています。


なお本研究の一部は科学研究費補助金(特定領域研究)の助成を受けて行われています。


関連リンク

    MEG実験ホームページ

    高エネルギー加速器科学研究奨励会