小柴名誉教授の研究業績

小柴昌俊氏は素粒子物理学および宇宙線物理学の分野で常に世界の最先端の研究を続けてこられた。
 長年、東京大学理学部教授、理学部附属素粒子物理国際センター(現、東京大学素粒子物理国際研究センター)のセンター長などとして、自ら多くの世界的かつ先駆的・独創的な研究成果を挙げるとともに、これらの研究を通じて多くの優れた人材の育成に貢献されてきた。

 氏の宇宙線分野における初期の仕事としては、宇宙線の超新星起源を初めて指摘したこと、大型原子核乾板を用いた国際実験の責任者として宇宙線による素粒子相互作用の解明を進めたこと、ミュー中間子束に関する初めての組織的研究、などの世界的に優れた数々の業績があげられる。

 また、素粒子物理学の分野においては、電子・陽電子衝突型加速器を用いた素粒子実験の重要性にいち早く着目し、1974年には現東京大学素粒子物理国際研究センターの前身である高エネルギー物理学実験施設を東京大学理学部に設立、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)における国際協同実験 DASP 及び JADE を組織された。これらの実験では、新粒子 Pc の発見、グルーオンの発見等の優れた研究を行ない、この業績により1985年にドイツ連邦共和国よりドイツ大功労十字章を授与された。
 さらに、スイスにある欧州原子核研究機構(CERN)における国際協同実験 OPAL の発足に尽力された。この実験では、素粒子の世代数が3であることや超対称性による力の統一の可能性が示され、統一ゲージ理論の精密な検証が行なわれた。さらには、質量の起源とされる未発見粒子ヒッグスボソンの質量が軽いことが明らかとなる等、数多くの成果が挙がっており、これらの成果は、次世代の加速器素粒子実験の重要な指針となっている。

 氏は1978年に大型水チェレンコフ検出器による地下実験 Kamiokande を提案され、1983年から岐阜県神岡鉱山において実験を開始された。実験の当初の目的であった陽子崩壊が観測されなかったこと等から、大統一理論に非常に強い制限がつけられる事となった。氏は同じ実験装置で太陽などから飛来するニュートリノを測定できることに気づかれ、Kamiokande はニュートリノの到来方向、時刻、エネルギーを同時に測定できる画期的な装置となった。1987年2月には、この Kamiokande 装置により、16万光年のかなたにある超新星 SN1987A からのニュートリノを捉え、世界で初めて超新星爆発からのニュートリノの観測に成功、これによりニュートリノ天文学という新しい学問を切り開かれた。その後、太陽からのニュートリノが理論の予言より少ないことが観測され、アメリカのデービスが全く異なる方法で得ていた結果と合わせて太陽ニュートリノの異常が確かなものとなった。
 東京大学を退官され東海大学に移られた後も、Kamiokande の次期計画である Super-Kamiokande 実験の立ち上げに尽力された。1998年には、この Super-Kamiokande 実験はニュートリノに質量があることを世界で初めて発見することとなった。

 上記のように、小柴氏は本学を中心として研究・教育に尽力され、Kamiokande に代表される宇宙線実験や最高エネルギーの加速器実験により素粒子・宇宙線物理学の新たな道を切り開いてこられた。


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