「ヒッグス粒子観測」のニュースについて 東京大学素粒子物理国際研究センター 2000年9月8日 9月7日の新聞報道では、CERNのLEP実験でヒッグス粒子が 発見されたかのような印象を受ける。この報道のもととなった9月5日 CERNでのLEPC(LEP Committee) meetingにおける各実験グループの発表及び これらの結果の集計の発表をまとめると以下の通りである。 ・4つのLEP実験のヒッグス粒子に対する感度はほぼ同じであるが、4実験 のうちの1つの実験(ALEPH)に、期待されるバックグラウンド事象 数よりも遥かに多くの事象が観測された。 ・その他の3実験 (OPAL, L3, DELPHI)には、このような有意な信号は まだ観測されていない。LEPのデータ量はまだ統計が少ないので ALEPHの結果を肯定も否定もできない。 ・LEP4実験の結果を集計すると、最も多く事象数の超過がある 質量は 114 GeV 近くである。 解析方法にも依るがその質量付近で 期待されるバックグラウンド約1事象に対して5事象観測されており、 バックグラウンド事象がたまたま多くでることによってこのような事象超過が 起こる確率は1〜数%程度である(どのように確率を計算するかによる)。 又、この事象数は 114~GeV のヒッグス粒子が生成された時に期待される 数とは矛盾しない。 外国の新聞報道は、ALEPHの発表が強調して取りあげられたものと思われる。 CERNとしては、これらの事象数の超過がヒッグス粒子によるものか、あるい は他の原因(例えば、単なる統計のふらつき)によるものなのかを確かめる ために、現在9月末に予定されているLEP運転終了を1〜2ヵ月間延長する かどうかを現在検討中である。その結論は来週末に出る見込みである。 我々もこの事象数の超過の原因がヒッグス粒子であることを期待しているが、 科学的に確定的なことを発表できる段階ではない。 (以上)
(参考資料)LEPC(2000.09.05) での各グループからの報告