本センター助手の三原智氏が 共同研究により 文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞
東京大学素粒子物理国際研究センターでは、ミュー粒子の稀な崩壊を探索する実験 MEG 開始に向けて、 高エネルギー加速器研究機構(KEK) と共同で 液体キセノンを用いたガンマ線検出器の開発研究を行ってきましたが、 この度液体キセノン検出器用冷凍機の開発により 本センター助手の三原智氏他四名が 平成17年度文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞しました。
(2005年4月)
受賞課題:「液体キセノンカロリメータ用パルス管冷凍機の研究」
受賞者
春山 富義(KEK素粒子原子核研究所)
三原 智 (東京大学素粒子物理国際研究センター)
笠見 勝祐(KEK素粒子原子核研究所)
井上 均 (KEK機械工学センター)
受賞課題の研究内容:
 ニュートリノ質量の謎や素粒子の大統一理論に迫るため、MEG実験は、素粒子の標準理論では 起こり得ないミュー粒子の稀な崩壊を探索する。この実験の成否を握るのが、世界でも初めての 低温液体キセノンを用いた大型ガンマ線検出器である。実験中液体キセノンを保持するためには、 検出器を絶対温度165K(摂氏マイナス110度)という低温で安定に長時間維持しなくてはいけない。 従来の実験装置では、77Kの液体窒素を大量に使用して低温状態を保持していたが、温度差が大きく、 液体キセノンの温度・圧力が大きく変動してしまう問題があった。
 このため165Kで高い冷凍能力を持つパルス管冷凍機を開発した。開発した要素技術は、 (1)低温端熱交換器のスリット加工により広表面積を確保、(2)蓄冷器を内側に置く同軸型構造、 などである。KEKにおいて開発・試作したパルス管冷凍機は最低到達温度が70K、 165Kでの冷凍能力70Wを得た。さらに高い冷凍能力と信頼性が必要となるMEG実験のために、 冷凍機メーカー(岩谷産業)の協力を得て、165Kで200Wの高冷凍能力をもつ パルス管冷凍機を開発した(下図左)。
  このように開発したパルス管冷凍機を使ってプロトタイプの液体キセノン検出器(液体キセノン 約120リットル)の冷却・液化・低温保持を行なったところ、液体窒素を全く使わないで、 高精度に温度を安定制御できることを実証した。これによって、このような検出器が 長期にわたる物理実験に問題なく使用できることを確立した(下図右)。
 液体キセノンを使ったこれまでにない高い分解能の検出器の開発は、MEG実験に限らず、 宇宙の暗黒物質(ダークマター)の探索や、医療診断のPET用検出器など、現在世界中で 活発に行われている。今回開発した小型冷凍機は、米国Columbia大学で進行中の 暗黒物質探索のためのテスト実験にも応用され、液体窒素を必要としない実験に成功し、 世界的に高い評価を得た。このように、液体キセノン用のパルス管冷凍機開発の成功は、 世界各国の液体キセノンを用いる様々な学術・応用研究に弾みをつけている。
pulse tube refrigerators prototype liquid xenon detector
開発されたパルス管冷凍機(右:KEK製、左:岩谷製) 冷凍機を搭載した液体キセノン検出器プロトタイプ
関連リンク:
 ・「文部科学大臣表彰科学技術賞受賞」 (2005.4.21 KEK ニューストピックス)
 ・「液体キセノンを冷やす」 (2005.1.20 News@KEK)

お問い合せは素粒子センター事務室まで 東京大学