超冷中性子を用いた重力実験 Gravity Experiment Using Ultra-cold Neutrons

超冷中性子と、重力による量子状態

setup

超冷中性子は速度10 m/s程度の非常に遅い中性子で、物質表面のポテンシャルに阻まれて全反射する性質を持つ。 そのため、重力のもとで平坦な床の上に超冷中性子を落とすと、古典的にはバウンドを繰り返すことになる。 これを量子力学的に考えると、超冷中性子は重力ポテンシャルによって束縛されることになり、 高さ方向の波動関数に従って、およそ10 μm周期の存在確率分布の濃淡を持つことになる。

この分布を精密に観測することがこの実験の目標である。測定された分布が量子力学による予想と異なった場合、 到達距離10 μm程度の未知短距離力を探索することも可能である。

この実験では、重力によって束縛された超冷中性子の位置を、サブミクロンの精度で測定する必要がある。 このような前例のない位置分解能を達成するため、中性子分布を拡大する中性子光学系と、 リアルタイム測定可能なピクセル検出器を組み合わせた装置を開発した。 2009年度までに 装置は完成させ測定の準備を終え、フランスILLにおいてテスト実験を行った。 今年度はさらに装置を改良し、量子分布を測定することを目指している。

実験の概要と測定器

超冷中性子の重力による量子状態を観測するための測定器を開発している。

setup

まず、超冷中性子を平滑な床と吸収体の天井を持つガイドに通す。超冷中性子は床の上で重力による量子状態を作る。 高いエネルギー準位の状態は観測の妨げになるため、天井に衝突するような主量子数の高い中性子を吸収体によって取り除く。

超冷中性子が物質表面で全反射するという性質を利用して、ガイドを通ってきた中性子の分布を円筒の曲面によって20倍程度に拡大する。

拡大された分布を測定するために、CCDをベースとし、リアルタイム測定可能なピクセル検出器を開発した。 電荷を持たない中性子をCCDによって検出するために、コンバータとの核反応によって中性子を荷電粒子に変換する必要がある。 高い位置分解能を維持するために、10Bの中性子コンバータ膜をCCD受光面に直接蒸着した。 このピクセル検出器は超冷中性子に対して40 %の高い検出効率を持ち、位置分解能は約3 μmであることが確かめられている。

中性子ガイド、拡大機構、CCD検出器を組合わせることで、中性子の高さ分布を1 μm以下の精度で測定可能な装置を開発した。 この装置を用いて、重力による量子状態を克明に観測することを目指す。