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ミューオン検出器の開発研究-MTP-時間の進む向きを逆にしたら…?小林・益川理論を土台とした標準理論は、物質の性質と相互作用を最も良く説明できます。 しかし標準理論を満たさない現象はいくつか存在し、「新しい物理」が必要と考えられています。 宇宙の物質と反物質の大きな非対称性を説明するためにはC対称性およびCP対称性が 破れている必要があるのですが、小林・益川理論ではその破れの大きさがまだ不十分であることがわかっています。 CPT定理よりCPが破れているならTの破れも存在しますが、このTの破れというのは まだ直接的に確かめられていません。 このTの破れをK+→μ+π0ν(Kμ3)崩壊における ミューオンの横偏極成分PTを用いて探索するのがJ-PARC(E06)TREK実験です。 PTは三体崩壊での崩壊面に垂直な成分として定義され、T-oddのベクトル相関、 PT=σμ・(pμ×pπ)/|pμ×pπ| と書くことができます。 ![]() Kμ3崩壊におけるPTは、バックグラウンドとなる標準理論からの予測値や粒子の終状態相互作用の寄与が小さく、 それらを考慮に入れたPTを10-4の精度で測定することは時間反転対称性の破れを見つけるための優れた探針です。 川本研では、このミューオンの横偏極PTを測定する検出器ポーラリメーターの研究開発に関わっています。 ポーラリメーターの中心でミューオンを止めて崩壊した陽電子を全立体角で検出し、 ミューオンと陽電子のトラッキングを行うことで、多重散乱の影響を排除して高精度でPTを 測定することができます。 ポーラリメーターはガスを用いた飛跡検出器ドリフトチェンバーですが、 このように入射粒子を止めて崩壊粒子の放出角を決められる特徴を持っています。 ポーラリメーターの候補にはプレート型とチューブ型(MTP : Muon Tube Polarimeter)があり、 現在は改良版の後者の研究開発を行っています。 2011年秋にCANADA TRIUMF研究所で性能評価のためのビーム試験を行いました。 データを用いてトラッキングアルゴリズムを開発したり、シミュレーションでの比較を行ったりすることで、 系統誤差を考慮に入れて評価し、TREK実験に適したポーラリメーターを決定します。 詳しくは、 J-PARC TREK Experiment 検出器開発といった自らの手を動かして、実験を行うことで、エレクトロニクスやDAQ、ビームチューニング等のめったに関われない作業の 経験を積むことができ、実験家としてのスキルを身につけることができます。国際的な共同研究なので、他の研究者と議論したりしながら、実験を進めます。 そして何よりも、自分が開発している検出器で物理現象を”見る”ことができるのはとても楽しいことです。 |