「中性子の将来計画」質疑応答議事記録 (録音を元に編集)


Q(西口)n-EDMはずっと走り続けたらどんどんよくなっていくのか?

A(北口)今リミットしているのはsystematicsで、磁場の測定精度。セルの中に磁束計を入れることはできない
ので周りで何点か測って想定するという方法と、あとco-magnetometerと言ってセル中に水銀などの原子を
入れてそれも同時に歳差回転させてその偏向を見て調べるという方法しかない。前者は直接測れていないし、
後者は全体の平均のようなものしか見れない。これをさらに改善するにはもっと密度を上げて小さくし、周りに
磁束計をたくさん用意し、完全に解いてしまうところまでできれば可能性はある。

Q(西口)そこまでやる意義はあるのか。いったいどこまで行けばよいのだろうか?(ミューオンのEDMの話でも
思うことだが。。。)

A(北口)他の実験などのsuggestionがあればどの辺りまでやらなければならないか出てくると思うので、
例えばLHCでSUSYの質量のリミットなどが出てくればどの辺りにありそうか出てくる可能性はある。それと、
ILLの実験で1e-26と言っているが、本当にそこまでsystematicsが追いきれているのかどうかは問題。ILLでは
測定の回数を増やすことで測定の確度を上げている実験なので、エラーバーの長さの正確性はどんどん上がって
いくが、エラーバーの長さ自身は見た目では短くなっているように見えても実際はそうではない。systematicsを
きちんと評価することが重要で、そのためにも密度の高いUCNソースがあって周りの状況をちゃんと調べてやる
という体系に持っていくことが重要。

Q(西口)ILLはもうやらないのか?

A(北口)今のセットアップではやらない。今のセットアップはPSIに輸送されそのままやることになっている。
新しいのは今作られている。

C(増田)UCN源について述べなかった。いつもこの分野で問題になるのがソースのボリュームと実験容器の
ボリュームの比である。グルノーブルの物をそのまま持っていくと言っているが、容器のボリュームは20数リットル
あり、ソースのボリュームが1リットル以下だととたんに薄まってしまう。トランスポートのロスもあるし、よく
調べた方がよい。また、ソース候補はHe IIとsolid deuteriumになるのだが、後者は固体でありその結晶構造を
コントロールするのは非常に難しい。先ほど140msecと言ったが、10年以上かけても20msecしかできていない。
もう一つの問題は結晶の質で、UCNから見ると光学的に曇ってきてmean free pathが短くなり、ボリューム全体を
使えず1〜2cmくらいしか使えないことが起こり、その結果1リットルどころか100ccくらいになる。結晶の勉強を
よくされた方がよい。

C(北口)PSIで固体重水素でやっていて、数が思ったほど出ていないというのは結晶に原因があると伝え聞いている。
固体重水素の作成については現在RCNPの人たちと相談しながら検討しているところ。また、容器のボリュームの話に
ついては、容器の容積をoptimizeすることで感度を上げるのがstep2になる。UCNは集めたり広げたりすると
それだけで削られてしまうので、ソースの体積をそのまま持ってくるという方法が理想的で、最適化が必要であるし、
今後の検討課題。