地下実験・宇宙観測タウンミーティング全体討論議事記録 (録音を元に編集)


森:高エネルギー物理(以下HEP)と天文・宇宙のシナジーに関して、HEP分野へ
の要望があれば聞きたい。

鈴木(洋):これは高エネルギー委員会が考えていることを提示して、それに対
する反応を知る場ではないのか?

森 :「提言」は提示してある。提言の中の各カテゴリー毎には、よりつっこん
だ議論をする必要がある。

鈴木(洋):HEPとして、シナジーをどう考えているのか? astroparticle
physicsを含んでいくのかどうか? 含む場合、CMBのように、日本になかった新
しいものをやっていくのはよいが、他のものについては、日本にかなりのアク
ティビティがある。それといっしょにやるのか、HEPとして独自にやりたいの
か、その辺がよくわからない。シナジーは勝手にできない。HEPとしてこうやり
たいという提案が示されないと答えようがない。

森:もちろん一緒にやりたいという趣旨。この小委員会のメインターゲットは10
年後を見越した大プロジェクト。科研費レベルのものはどんどんやればよいが、
10年後、数100億円以上というようなもので日本主導のものはコミュニティとし
て選んでいきたい。ただし、一つを選んだからといって他をリジェクトするもの
ではない。国際協力を含めて複数の大プロジェクトを進めていくことを想定して
いる。コライダーと加速器を用いたニュートリノプロジェクトの二つが最大の
テーマになっている。

鈴木(洋):今日のその他のテーマについては各人勝手にやればよいということ
か? 

森:個人的にはそれでよいと思っている。

杉山:学術会議マスタープランにHEPから加速器を用いた大プロジェクト提案が
出ているのは認識している。しかし、今日説明のあった他のプロジェクトも、一
つ一つは科研費でやるのは厳しいレベル(数10億から100億以内)で、これらの
「中型プロジェクト」の予算獲得が現状のシステムでの課題となっている。天
文・宇宙線分野でも同様の問題を抱えていて、プロジェクトの調査をはじめたと
ころ。HEPではそのレベルのプロジェクトについてどうするのか、この小委員会
で順位づけをするのか?

森:小委員会での意見交換が終わっていないので以下は個人的意見だが、順位付
けはしないが、物理の重要性をよく議論する。それに基づいて中型プロジェクト
をどんどん実現させていくのは極めて重要。

鈴木(洋):HEPコミュニティだけで決めていいものと、外のコミュニティで動
きがあるものとは分けて議論すべき。外のコミュニティで活動があるものをHEP
で勝手に評価してもらっては困る。

森:HEPの人が何をやりたいかをまとめるのが小委員会の主眼。

鈴木(洋):すでに外でやっている人がいる場合はどうするのか? 

井上:逆の問題として、明日、中型プロジェクトに関する宇宙線のタウンミー
ティングがあるが、素粒子ではそのような動きがないので、俎上に乗せられない。

鈴木(洋):それは学術会議の天文・宇宙分科会に宇宙線を入れただけ。素粒子
は素粒子の分科会でやるべき。素粒子色の濃い地下実験を入れる場所がないのは
学術会議の構造的問題。二つの分科会の谷間にあるプロジェクトの扱いが不明
確。改良すべき。うまく両方合議でやってもらいたい。あるいは、新しい
astroparticle physicsの分科会を立ち上げることだが、それにはコミュニティ
の大きさが必要。

森:CRC伊藤さんからのメールをいただいている。境界領域でもれている部分を
協力して進めていきたいとのこと。

鈴木(洋):その際にEqual footingでやることが重要。その辺が(私もHEP出身
なのでわかるが)HEPの人は唯我独尊の気味がある。目指すサイエンスはHEPも宇
宙線もいまや同じである。コミュニティとして分ける必要はない。サイエンスを
一緒に議論し、その中から出てくるものをやればよいのであり、あまり形をつ
くってやるのはよくない。実質的な話が出来ることが重要。

森:学術会議の話でもそうだが、上げていく場所が分かれている(のが現状の問
題)。例えばKEKの首脳部は小委員会の答申をよく読んで考えるはずなので、
宇宙関連のことをきちっと入れて置くことが重要。

鈴木(洋):そのときに、宇宙線コミュニティなどときちっと議論がされている
ことが必要。

森:それはその通り。

杉山:コミュニティの正体がつかめない。天文の場合、学術会議がその役割を果
たすのだという強い意識があるが、素粒子・原子核の場合は?

生出:学術会議は、委員を個人的な人脈で選んでいて、コミュニティが選んでい
るわけではない。KEKからも代表者が出ていない。コミュニティとは別物である。

杉山:以前は学会推薦だったが、それをわざと切ろうとした時期があり、今は戻
しつつあると理解している。宇宙・天文では学術行政におけるボトムアップな装
置が学術会議と認識している。

鈴木(洋):文科省は、学術会議のことをコミュニティと思っている。それはお
かしいのだが。

生出:なんと思われようと、実態が違うものは違う。

杉山:予算化するときに学術会議のマスタープランに基づいて文科省で決定され
ていった事実はある。

森:ステップとしてそこを通る必要があるということになりつつある。HEPは、
たまたま入っている委員が現在高エネルギー委員長であり、コミュニティで議論
したものを上げることが出来ている。

野崎:まもなく高エネルギー委員会も学術会議も改選。今後どうなるかはわから
ない。狭間に落ちるような重要プロジェクトがないように、HEPと宇宙・天文の
学術会議メンバーがすりあわせをすべき。

羽澄:学術会議が予算に関して力を持ち始めたのは最近。コミュニティとして委
員を推薦するしくみになっていないことは、今後大きな問題になる可能性があ
る。そこは改善すべき。

身内:現状では、学術会議メンバーの意見、イコール、コミュニティの意見と
なってしまわないか?

鈴木:そうはならない。宇宙線を例にとれば、CRCでまとめた意見を持っていく。

杉山:宇宙・天文もヒアリング、シンポジウムなどを開催して、意見を拾い上げ
る努力をしている。

生出:学術会議で扱えるプロジェクトの規模はせいぜい300億程度。リニアコラ
イダーなどは、学術会議に縛られてはいけない。もっと大きいところを狙ってい
く必要がある。

森:それでも学術会議を通っていることは必要条件になるのでは?

生出:以前はもっと大規模なプロジェクトは全く別ルートで通っていた。学術会
議を通っていることが必要条件になると、マイナスでは?

杉山:コミュニティがこぞって押していることを政治家・官僚に示すものとし
て、学術会議マスタープランはよい道具。G8などで外国はdecadal planがあるの
に日本は見せるものがないということから作られたという経緯もある。以前は無
力だった学術会議が意味のある活動をし始めているので、うまく使ってほしい。

森:大型ニュートリノ検出器の話題に移ろう。

鈴木(洋):大きなtheta_13の兆候が出てきた今が、大型ニュートリノ検出器プ
ロジェクトを推すチャンス。世界各国が動き出しており、その競争に負けると日
本ではプロジェクトが動かなくなる。スピードが大事。プランを早く作り、世界
に示し、外国からコラボレーターを募ることが大事。世界から注目されている
今、1日でも早くテクノロジーを決める必要あり。何年もR&Dを待っている時間な
どない。

小林(隆):まず、HEPコミュニティでは、技術は何であれHEPとして大型ニュー
トリノ検出器プロジェクトを推すかどうかはきちっと決める必要あり。検出器の
選択に関しては、physics potentialを含めて比較していく必要があるが、その
議論はより小さなコミュニティで始められると思う。急ぐ必要があるという意見
には同意。ただし、検出器だけ考えていてもだめで、J-PARCのアップグレードを
どうやっていくかも含めてプロジェクト提案する必要がある。よく考えて、請求
する予算が後から膨らむような事態は避けるべき。

森:技術の詳細は小さいグループで議論していけばよいが、国際情勢をにらんで
一番乗りになるためのスケジュールを議論することは重要であり、答申にも反映
させたい。ただし、今回の答申に関しては、来年初頭に出す予定であり、
theta_13に関しては決定的なことは言えない。

羽澄:今回のtheta_13の結果に基づいて何か決定を下せるようなレベルではな
い。来年以降の結果によっては、indicationが消える可能性はある。しかし、国
際情勢に鑑み、そんなに待てないという議論は正しいと思う。

森:大型ニュートリノプロジェクトについては、スケジュールを決めるものは加
速器のアップグレード。それとFNALの動向などの国際情勢。

鈴木(洋):日本がリーダーシップを取るためにどう進めるか、という観点が重
要。日本が欧米に先を越されないようにすること。

手嶋:来年早々にHEPから答申を出すということだが、学術会議マスタープラン
の改訂のスケジュールとはフェーズがずれているように見える。背景に何かある
のか?

森:来年早々に出すことは前からの決定事項であり、特に背景に何かあるわけで
はない。LHCの結果によって次の一手が決まるという事情があり、今回の答申で
きっぱりしたマスタープランが完成するのではない。将来計画を考える常設の委
員会を設置して、発見に即応してHEPマスタープランを作っていける体制とする
ことを「提言」で提案している。

森:(ニュートリノの議論に戻ると)8月上旬にJ-PARCに関するタウンミーティ
ングを行い、そこで加速器アップグレードの議論をするので、参加してほしい。

生出:J-PARCでのタウンミーティングのアジェンダを見る限り、近い将来のこと
ばかりで、10年後の加速器の話をする議題となっていないのではないか?

小林(隆):1MWを超えるアップグレードについて、アイディアレベルの話もし
てもらうことになっている。

森:時間なのでこれで終わるが、更にご意見があれば、委員の方にどしどし寄せ
てほしい。